僕は2023年度、大学2年生の時に、『信号とシステム解析』という授業の単位を落としました(以下ではこの出来事を「信号とシステム解析落単」と表現します)。当時はとても落ち込んで、何が悪かったのか・どうすればよかったのかと悩み、反省しようとしていたわけですが、月日が経つとともにそうした思いも薄れてきて、『どうでもよく』感じるようになってしまいました。
しかし、それではよくありません。
起こってしまった(あるいは起こしてしまった)過ちや失敗から学び、反省を忘れてはいけません☆。そこでこの投稿では、信号とシステム解析落単を振り返り、反省を記録に残します。
事件の概要と経緯
信号とシステム解析とは
「信号とシステム解析」は、弊学弊学科で開講されている選択科目であり、研究室所属要件として最低6単位、卒業要件として最低9単位の修得が求められるA科目と呼ばれる3単位科目の1つです。A科目は年度を通じて4科目のみ開講されており、全て履修・修得しても合計12単位です。よって、卒業のためには、4科目の内3科目以上のA科目の単位を修得する必要があるという背景があります。
授業内容としては、複素関数論から始め、テイラー展開・ローラン展開とともに留数定理等を学習する前半部分と、フーリエ級数展開・フーリエ変換・標本化定理・離散時間フーリエ変換・ラプラス変換等の計算原理を扱う後半部分に分けられます。担当する教員は2人で、前半をX先生、後半をY先生が担当します。週3コマ(1コマ100分)で、内2コマが講義、もう1コマが演習のスタイルの授業ですが、演習の出来は問われません。また、成績にも演習の出来は加味されません。
成績は、期末試験を100点満点で採点し、演習の授業に全て出席した場合に10点を加算します。最高110点の素点を100点で切り捨てたものを最終的な成績にしますが、基本的には期末試験の出来に大きく左右されることになり、中間試験なども行われないため、わずかなミスが命取りになる傾向にあります。
僕が『信号とシステム解析』を2023年度(学部2年次)に履修した結果、期末試験の点数が43点+演習出席点10点で、成績が53点となり単位を取得できませんでした。
期末試験
2023年8月1日に100分間の期末試験が実施され、おおよそ以下の問題が出題され、以下のような回答を書き提出しました。なお、試験問題は著作物なため、題意を損なわない範囲で一部改変しています。
大門 | 内容 | 配点 |
---|---|---|
1 | 複素関数論(初等関数) | 25点 |
2 | ローラン展開と留数, 複素関数の積分 | 25点 |
3 | フーリエ変換と一様収束 | 25点 |
4 | ラプラス変換 | 25点 |
合計 | 100点 |
大門1

大門2

大門3

大門4

成績公開
2023年8月29日、13:00頃に発表された成績を閲覧したところ、成績が53点であり単位を取得できなかった(=落単した)ことを確認し、13:48に担当教員のX先生とY先生に成績確認メールを送りました。その後、成績確認を対面で行うことが決まりました。
成績確認
自分が提出した答案とその採点結果を見せてもらいました。大まかな内容は次のようなものでした。
大門1

- 問題文が方程式sin(z)=3の解を求めるよう指示しているが、答案ではe^z=3を解いてしまっている
- 問題と異なる方程式の解を求めていることから点のつけようがないが、オイラーの公式の部分を評価し10点の部分点与えている
大門2

- (i)について、部分分数分解までは正しくできているものの、その後等比級数の和の公式の逆を用いるところの加算の開始番号が誤っている(k=0から足すべきところをk=1からの加算としてしまっている)
- (ii)について、留数はその特異点の除外近傍でのローラン展開の-1乗項の係数とすべきところを、ローラン展開をする領域を意識せずに定義を用いており、結果結論が誤っている
- (i)について、等比級数の和の公式は高校数学の範囲であり、正しく適用できないのは致命的であるため途中点は与えられない
- (ii)について、留数の定義を正しく理解できておらず、途中点は与えられない
大門3

- (i)について、x(t)が偶関数であることから、x(t)e^(-iwt)が偶数であることを暗に仮定してしまっているが、e^(-iwt)は偶関数でも奇関数でもないため、式変形が不適当である(こうした式変形を行いたければ、e^(-iwt)をsinとcosに分解してから行うべきである)
- (i)について、途中の積分の計算ミスではあるものの、そもそも問題自体が計算問題にすぎず、最終的な解があっていないのに途中点を与えることはできない。よって途中点は与えられない。
大門4

- 計算方法と方針そのものは正しいものの、途中の分数同士の計算で計算を誤っている。
- 途中点はあらかじめ決められた基準に従い、与えられた微分方程式のラプラス変換までを求められていることから、そこまでを評価して15点与える
講評
X先生は、表面では不慮の事故があったことを認めたうえで、裏面で一定程度得点できていれば単位そのものは得ることができたことを指摘し、「試験当日に睡眠不足の状態で挑んだのではないか」「大学での勉強方法が分からず、困っていることはないか」等を聞いてくれました。そのうえで、「信号とシステム解析」で学習するような内容は、工学系の内、特に情報通信分野では、共通の常識であり、将来活躍するためには授業内容を漏れなく理解してほしいこと、そのためにもう一度勉強しなおすように言われました。
Y先生からも、X先生同様、試験問題は極基本的な計算を問うてるに過ぎず、失点はいずれも計算ミスに起因することは認めながらも、この程度の問題はミスなく正しい解を出せるようにしておいてほしいといった趣旨の総評がありました。
落単の原因
直接的な原因
2023年度信号とシステム解析を落単した直接的な原因は、期末試験の得点が低かったことです。前述の誤答の中で最も得点に直接的に影響したものは、次の2つです。
- 大門1の問題と異なる方程式を解決(-15点)
- 大門3のフーリエ変換で初歩的な計算誤り(-15点)
これらはいずれも減点数が大きく、合わせて30点分になるのに加え、十分に避けることができたミスであるといえます。
特に大門1については、授業中にX先生が期末試験に出題することを示唆していたので(先生本人は試験後の面談でそのことを覚えていなかったので、出題されたのはたまたまであると考えられる)、前日にも教科書に掲載されていた、複素数の範囲での三角関数を含む方程式を練習していました。
また、大門3のフーリエ変換についても、相当初歩的な問題であることに加え、授業期間に出題されていた課題(復習問題など)で同様の問題を計算していました。その時、期末試験と同じような計算誤りを一度して修正したことがあり、こうした経験を踏まえれば十分に回避できた失点であると指摘できます。
本質的な原因
期末試験で失点を重ねたことが直接的な原因であることには間違いはありませんが、より本質的ないくつかの原因が指摘できます。
- 演習不足
- 低すぎる目標と採点方法の楽観的推測
演習不足
まず第一に、落単の本質的かつ最大の原因は「演習不足」であることを認める必要があります。
大門1と大門4については、不慮の事故である側面もあると思いますが、大門2と大門3の失点は重大です。いずれも、初歩的なミスであり、十分量の同様の問題を解いていれば犯さないミスです。
例えば、大門2の(i)については、無限等比級数の和の公式を誤認しています。

無限等比級数の和の公式は上の図のように表せると思います。この問題が問うているローラン展開では、ローラン展開の定義式は用いず、展開の一意性をもとに、上の等比級数の和の公式を逆向きに用いることで、ローラン級数に直します。
この等比級数の和の公式を当初、赤の1番のように暗記していました。これは高校数学で学習する形式です。しかし直前に問題演習をするにあたり、赤の2番のような表し方をしている解説を目にし、自身が暗記している公式が誤っていたのではないかと誤認。誤って誤りB公式を覚えなおしてしまいました。
シグマに関する初歩的なミスでありますが、それ以上にこうした勘違いを改めることができるほどの演習量が確保できていなかったのが問題です。例えこの公式の誤認などの勘違いを起こしたところで、十分量の演習を行っていれば、答え合わせをする段階で過ちに気が付くはずです。
また、大門2の(ii)については、留数の定義といった、この分野でも最も基礎的な事項を把握できておらず、『計算ができればいいや』といった地球上最も愚かな判断で留数の計算方法のみを抑えていたりもしました。
さらに、大門3の(ii)は、積分に関する初歩的なミスですが、そもそも実対称関数(偶関数)のフーリエ変換は実関数になるはずであり、十分量の演習を行っていればこうした規則性を身に着け、試験中の計算誤りを見抜くことができたはずです。
そもそも、信号とシステム解析に限らず、弊学の授業ではおおむね1授業につき100分程度の予習・復習が求められています。そのことを考えると、授業期間からの日々の学習・試験前の試験勉強を合わせても圧倒的に演習時間が不足していたわけで、どんな言い訳を重ねようが、『勉強不足』こそが最大かつ唯一の本質的な原因だと思います。
低すぎる目標と採点方法の楽観的推測
低すぎる目標設定も問題でした。
2023年度2Qは、信号とシステム解析の他にも、いわゆる時間がかかる課題が多い授業が多く重なったことを受け、最低限すべての科目の単位を落とさないようにするという極めて消極的な目標を立てていました。この目標が、無意識のうちに「多少の失点は仕方ない」という考えを生み、実際に失点につながりました。
期末試験では、試験時間100分の内30分程度時間が余りました。そこで見直しをしたのですが、ミスなどを見抜くことができなかったのは「これくらいとれていれば単位は落とさないだろう」という安堵感からくる怠慢です。
実際、大門3の(i)について、フーリエ変換の結果が虚数であり、かつとても汚い結果となったことに違和感を覚えていましたが、最後まで計算ミスを見つけることはできませんでした。解き方が分かっているから、多少は計算ミスがあったとしても、本質的な部分があっていれば相応の途中点が与えられるはずだと考えていました。
それまでに受講し、単位をとってきた科目とその期末試験での出来、最終的な成績の得点などから、試験中に得ていた手ごたえは十分に合格レベルのものだと判断し、少しでも点数を上げるアクションを起こさなかったことが不必要な失点につながり、結果として落単に大きく寄与したと言えると思います。
感じたこと・反省したこと
さて、信号とシステム解析落単から何を感じ・反省すればいいのでしょうか。
落単直後
傍から見れば、『ただ単に単位を落としただけだろ?』と思うかもしれませんし、実際そうだと思いますが、この落単には単に単位が認められなかった以上の意味に悔しかったです。というのも、
- 試験中は十分解けたと思ったし、成績を見るまで最低でも80点程度はとれていると感じていた
- 試験問題は過去問よりも簡単で解きやすく、授業中に予告されていた問題や前日に演習した問題も多く含まれていた
- 全体的に計算ミスや問題文の読み間違いが目立ち、十分に防げたミスのように一見思えた
- 他の履修者の成績が良かったらしく、担当の先生からも満点の人も多かったと聞かされた
- 講義はもちろん、演習の授業も欠かさず出席していた
等があったからです。特に、落単した直後から半年くらいは、現実を直視できず、自分の非を認められなかったり、口では認めたようなことを言っていても、心の中では『担当した教員が悪い。成績の付け方が悪い。自分は被害者だ。』という思いがぬぐい切れませんでした。
周りの人が当たり前にこなしている、学生としてやらなければいけない最低限のことである「単位をとる」というたったそれだけの事が自分にはできなかったということ、入学は大変だが入ってしまえば息さえしてれば卒業できるとも揶揄される日本の大学においてこんな結果を招いてしまったこと、これらが嫌で嫌で仕方ないのにもうなす術がないこと。
何やってても、これらの考えが頭を離れず、辛いと感じていました。特に授業受けたり、作業をしたりしていると、頭の中にフラッシュバックしてきて、一人で勝手に不機嫌になってることもありました。(周りの方ご迷惑をおかけいたしました。)
その後しばらくして
さて、結構落ち込んでいたのですが、どんな傷も時間が癒してくれます。
ちょうど2024年になったころ、そして冬が過ぎて春が徐々に近づいてきたころには冷静になってきていました。この落単は『自分が悪かった』のだと。
個別指導バイトで、高校3年生を教えてるとき、「当たり前のことを当たり前にできることが大切だよ」と言っていました。これは、教科書に載っているような基本的な解法を正しく適用できることが大切だという意味ではなく、受験生だから勉強するとか、模試を復習するとかそういうことを実際にやれることが重要だという意味です。
ただ、とんでもないことですが、これを口にしているときは自分の言葉だと思っていましたが、よく考えてみると、この言葉は誰かの言葉を適当に借りてきただけなことに気が付きました。というのも、自分は受験生の時『当たり前のことを当たり前にできていないかった』生徒だったからです。高校3年生になっても10時間以上勉強したことはほとんどなく、模試の復習なども余りした覚えがありません。入試という限られた資源の中で行われる妥協された選考で、異物のように混入し大学に入学してしまったのです。
信号とシステム解析落単は、こうして『当たり前のことを当たり前にやる』ことができていない僕に対する警告だったのかもしれません。上にも書いた通り、大学の授業では1時限に対して100分間の予習・復習が必要です。実際100分間を測ってやるかどうかはおいておいて、勉強をしないで乗り切れるものではないはずです。試験前にごまかすかのようにぐちゃぐちゃ勉強したところで何の価値もないよという忠告のようにも思えました。
※これは担当教員の先生にも、言葉こそ違えど指摘されました(当時の僕が素直に聞き入れたかどうかはおいておいて)。
再履修
2024年度、再履修することができ、全く同じ内容の授業をもう一度受けなおしました。
7割程度は、「去年やった内容だな」「去年は理解してたけどどうやってやるのか忘れちゃったな」といった具合でしたが、一部「去年もわかってなかったな」と感じる内容もありました。例えば留数の定義など、2023年度はローラン展開の-1乗項の係数程度にしか思っていませんでしたが、どこの領域でのローラン展開なのかといった基本的なことが抜けていたなと気づくことができました。
2周目で余裕もあったこともあり、去年より面白いなと感じました(ちなみに、人間は7割くらいわかる内容を勉強することが快感らしく、再履修も悪くないなと思ってしまったことは内緒です)。
結果、2024年度の信号とシステム解析は100点でした。成績開示をしていないのでテストで100点だったのか、演習の加点に助けられたのかはわかりませんし、何なら「再履修だからお情け満点なんじゃないの?」って言ってくる人もいました(僕はあの先生がそんなことをするとは思っていません(願望))。
ただ、点数以上に、わかっていなかったところの穴を埋められたという感覚が嬉しかったです。落単が決まった時はとても悔しかったですが、適当な理解しかしていなかった僕を正しく落としてくれたのは先生の優しさだったのかななんて思ったりもしています。
『工学系大学生なのに、ローラン展開・留数定理・フーリエ解析などなどを正しく計算すらできないなんて恥ずかしいぞ。できるようになってよかったじゃないか』
最後に
「なんだこの記事は」と思った人もいるかもしれません。ただ単に勉強不足で落単した挙句、落単してよかったみたいな結論でとんでもない記事だなと思った方。
正解です。
落単に意味などありません。この記事は、落単してしまった僕が必死に落単に意味を見出そうとしているだけです。そうでもしないと虚しくなって生きていけないからです。ただ、今後は誰に話しても恥ずかしくないような、『当たり前の生活』をしようと誓ったのは事実です。