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改装が難航する西武池袋本店の建物はどれほど複雑なのか [2/2]

浮上する西武池袋本店の新たなイメージ

西武池袋本店を含めたヨドバシHD池袋ビルの改装は我々が思っている以上に大規模なものなのかもしれない。

そごう・西武のフォートレス・インベストメント・グループへの売却が決まって以降、西武池袋本店の改装計画については実に多くの報道があった。特にヨドバシカメラなどが売り場面積の半分以上を占めることを踏まえたフロア構成図などは当初は衝撃的であり、さまざまな可能性が報道されたが、そごう・西武がプレスリリースで計画の一端を公開したことで、ある程度予想がつくようになったのは2024年6月のことである。

2024年9月には、そごう・西武が、入居ブランドやステークホルダーなどを招待したINCLUSIVE PARTYを開催。綱町三井倶楽部で開催されたこのパーティーと前後して、完成後のいくつかのイメージ画像が公開された。西武池袋本店はグランドオープン後の姿について、リニューアルオープン特設ページなどでみられるほか、Fashion Pressが多数のイメージを公開している。

こうした報道を慎重にみていくと、新装・西武池袋本店(もっと言えば、ヨドバシHD池袋ビル)に関するいくつかの可能性が見えてきた。以下の2つの点について考えてみよう

  1. メインエントランスはどこ?
  2. エスカレータはどうなる?

メインはどこ?

改装後の新たな「顔」

西武池袋本店のリニューアル後の姿として有名なのは、この画像だろう。

【出典】そごう・西武プレスリリース(西武池袋本店、“新しい百貨店へ” 2025 年夏にグランドリニューアルオープン)から引用

ブロンズを基調とした装飾とそれを背景とした大きな"SEIBU"の文字は、改装のテーマの一つである「ラグジュアリー」を体現している。これはおそらくは、新装・西武池袋本店のメインエントランスなのだろう。これまで、西武池袋本店の地下1階には、クラブオンゲートなどモニュメントや季節の装飾を伴ったホールがある入り口が設置されている一方で、西武池袋本店の1階にはメインエントランスらしき入り口はなかった。この改装の「顔」であるメインエントランスはどこにできるのか?

改装開始前の西武池袋本店1F南~中央ゾーンのフロアマップ

これは、本館の最南端部分になるのではないかと言われている。

メインエントランスは最南端部

新たなメインエントランスは、西武池袋本店の管轄である南側のゾーンの中で、さらに南端である部分にできることが予想される。この場所はHERMESの南側(明治通りから見て左側)のこれまで車寄せがあった場所である。車寄せは確かに2025年1月から改装工事によって閉鎖されているが、本当にこの場所がメインエントランスになるのだろうか?

【出典】そごう・西武公式ウェブサイトリニューアル特設ページ( https://www.sogo-seibu.jp/ikebukuro/renewal/ )から引用

この画像は、先ほどのメインエントランスを別のアングルから見たイメージ図であると思うが、まずメインエントランスの右側に目がいく。柱を挟んで茶色系の金属感のある縦ストライプが見て取れる。これはおそらくHERMES(エルメス)の外装だろう。ブランド名こそ映っていないものの、見る人が見ればこれは西武池袋本店のHERMESの壁である。ということはメインエントランスはHERMESの南側(写真における左側)に位置することになる。

加えてよく見ると、写真の左側に道路の案内標識が立っている。なぜイメージ画像にわざわざ景観を遮る案内標識を含めたのかという疑問を持ちつつ、よく観察すると、ポールが背景の画像に若干溶け込んでいるように見えることに気が付く。おそらくこの画像は今現在の本物の写真に、改装後のイメージ画像を合成したものなのだろう。では、現実世界で元々車止めだったところにこの案内標識はあるのか。

元々車寄せがあったところを道を挟んだ対岸から見た画像。左端に道路案内標識があるのがわかるだろう。

あった。これで場所は間違いないと言ってもいいだろう。これまで車寄せだったところを潰して、メインエントランスを設置することになるようだ。

エントランスの立地的意味

本館の最南端にメインエントランスを配置することは何を意味するだろうか。まず一つ言えるのは、JRや東京メトロの池袋駅からは一番距離がある場所である。池袋駅東口エリアで人通りの多い、グリーン大通りや東口五叉路などからも遠い。

一方で、店舗の中に目を向けると最適なロケーションである。メインエントランスを入って奥に進んだところに、南ゾーンA通りエスカレータとエレベータ(4+2=)6機がある。今は改装に伴いサービスを終了したインフォメーションカウンタも場所を大きく動かさずに、メインエントランスからのお客さんを迎え入れることができる。

1階や地下階は変則的であるが、基本的には西武池袋本店の営業エリアは本館の南ゾーンである。南エスカレータ・エレベータは店内の垂直方向の移動の大動脈となることを考えれば、メインエントランスから適度な奥行きを挟んでそれらにアクセスできるのは良い立地であり、優秀な動線である。車寄せをメインエントランスに建て替える改装計画は、店内を見渡せばかなり理にかなった計画であると言える。

中央エスカレータをダブル掛け替え?

互い違い→ダブル

ヨドバシHD池袋ビル全体を見渡すと、西武池袋本店部分である南ゾーン以外でも大工事が行われている可能性がある。その一つが本館の中央部分に設置された中央エスカレータである。このエスカレータを両方向から上り下りできる「ダブル」型に掛け替えているのではないかという指摘がある。

現在B1F~8Fまで続いているこのエスカレータは各サイドから2本ずつエスカレータが伸びている互い違いのもので、ある階から別の階に向かうためには、エスカレータケースの特定の方向からに限定された。「上の階に行こうと思ったら、こっち側は下りエスカレータしかなかったので、反対側に向かわなくては」という経験をしたことは誰でも一度はあるだろう。

ダブルエスカレータでは両方向から上り下りできる。エスカレータケースのどちら側にも上の階・下の階からの上り下りエスカレータが発着しており、4つのエスカレータが片側に並ぶ構図になる。各階に発着するエスカレータは互い違い型の2倍の8本である。ダブル型は単純に考えて従来の倍のスペースが必要になる一方で、エスカレータケースのどちら側からも目的のエスカレータに乗れるという利点がある。

先をゆく千葉・追いかける池袋

そごう・西武の建物などを取得して、ヨドバシカメラなどに改装するのは池袋が初めてではない。ヨドバシカメラ千葉店の事例がある。元々、そごう千葉店の別館が2023年8月に閉館した場所に、元々千葉市にあったヨドバシカメラを移転させて、2024年11月にオープンさせた。

この改装工事で、六角形の建物の中央にあったエスカレータは、互い違い型からダブル型に掛け替えられ、両方向から上り下りできるようになった。土地を取得して新たな建物を開発することが多いヨドバシHDにとって既存の建物、とりわけそのままでは回遊性が悪くなってしまう構造のものを改修することはあまりなかったのかもしれないが、ヨドバシHD社長は「売り場の回遊性には特にこだわった」とし、一定程度の手応えを示唆した。

中央エスカレータ

西武池袋本店改め、ヨドバシHD池袋ビルにおいても同じことが行われると考えるのはどうだろうか。日本経済新聞は次のヨドバシ、百貨店と共存 社長が語る「西武池袋」の中でヨドバシHD社長の発言を次のようにしている。

藤沢社長は、自ら何度も店舗に足を運んで改装案を練った。1階の入り口から入ってきた客を、どうすれば2階より上のヨドバシカメラの売り場にスムーズに誘導できるのか、どこにエレベーターとエスカレーターを配置すれば客が行きたい売り場にたどり着きやすくなるのかなどの改装案を練った。

既存の建物において、エレベータやエスカレータを移設するのは容易ではない。しかし、先に見たヨドバシカメラ千葉店のようにエスカレータをダブル型にするなどの改修であれば、可能性はある。

なお、ヨドバシHD池袋ビルには中央エスカレータ以外にも、北ゾーンなどにエスカレータがあるが、地下階から8階まで同じエスカレータケースで続いているのは、西武池袋本店エリアの南ゾーンのものを除けば、中央エスカレータだけである。ビル内の回遊性にこだわるなら中央エスカレータを強化するべきだろう。

実際、どうなるのかは開業してみないとわからないが、中央エスカレータの「ダブル化」の可能性は否定できないのではないだろうか。

揺れる池袋の守護神

西武池袋本店の建物は1952年からその一部が現在の位置に建ち続けてきた。その間、戦後の復興から高度経済成長期、バブル時代を経て失われた10年、さらに令和時代をずっと池袋の地で見守り続けてきた。前半はその歴史を振り返った。また、西武池袋本店建物改めヨドバシHD池袋ビルで行われる改装のうちいくつかの可能性について、報道や現地の状況などをもとに可能性を検討した。

改めて振り返ると、西武池袋本店は「セゾン文化」の聖地であった。今回の記事では趣旨から外れるため触れなかったものの、繰り返された増改築は単なる利益追求にとどまらない「セゾン文化」という大義名分があった。今日、我々が感受している豊かさには、セゾン文化のもとで誕生し育てられた価値観も少なからず含まれるだろう。そのことを考えれば、セゾン文化の発祥の地である西武池袋本店建物は、我々にとっての「聖地」なのである。

西武池袋本店の建物は「ヨドバシHD池袋ビル」として、第二の人生を歩み始める。新たなフェーズではどんな価値観で、人々に何をもたらすのだろうか。