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【社説】池袋西武はエレベータが難しい

2024年9月1日。

ついに、セブン&アイHDの元子会社で、フォートレスインベストメントに売却されたそごう・西武の旗艦店、西武池袋本店(通称: 池袋西武)の建物の運営が、ヨドバシHDの不動産会社、ヨドバシ建物に移管されました。

経緯と現状

ヨドバシHD池袋ビル

9月1日からヨドバシ建物の管理・運営となった元西武池袋本店建物、現ヨドバシHD池袋ビル

これまで、池袋西武は建物を所有し、88,000平方メートルの売り場面積を有していましたが、2023年9月ヨドバシHDに不動産が売却され、今後はヨドバシHDが『ヨドバシHD池袋ビル』として建物を管理し、そのテナントとして、ヨドバシカメラ・池袋西武・池袋ロフト等が入居する形に移行します。

8月末までに、ヨドバシカメラ予定エリアの池袋西武売り場の営業終了と撤収が完了し、9月からはB2F全体・B1F~8Fの南ゾーン・1階の大部分のみが本館での池袋西武の営業エリアとなりました。

【出典】: そごう・西武公式ウェブサイト 西武池袋本店 改装工事中の営業情報についてから引用

上の図のように、8階中央・北ゾーンのダイニングパーク池袋や、9~12階南ゾーンのLoft等もヨドバシHD池袋ビルのテナントとなり、池袋西武のテナントではなくなりました。

デパナナ

また、「デパ地下」から「デパナナ」へ。池袋西武の"今"を見るでも紹介した通り、いわゆるデパ地下と呼ばれる、お惣菜やスイーツ&ギフトエリアが7階に仮移転しました。

「7階まで行く気はしない」「帰りにふらっとよってお惣菜を買っていたが7階まではさすがに行けない」「デパチカ移転して、お隣の東武が大盛況」などの意見がXで散見された一方で、平日・休日ともに7階催事場仮デパナナ売り場に足を運ぶと、結構な混雑。写真は撮れないものの、売り場の移動に不自由さを感じる程度には混雑していました。

ただ、このデパナナがどうやら問題を起こしているようです。

店内導線がカオス化

ダンジョン

池袋西武が全館改装に入ってから、一度でも足を運んだことがある人ならわかると思いますが、上の図のように低層階を中心に大部分が改装や営業終了のため閉鎖されている関係上、目当ての場所にたどり着くのが極めて困難です。

全館が営業していれば、とりあえず「SEIBU」の看板が見えたらそこから建物に入り、後はエレベータで目当ての階に行き、その階で目的の売り場まで移動すればいいだけです。しかし、エリア封鎖により通り抜けできないところが多く、目当ての売り場によって入店口が制限されるといった事態になっているのです。

特に地下1階は閉鎖されている入口が目立つ

Loftに行きたいなら「クラブオンゲート」から入店、ダイニングパーク池袋に行きたければ「SEIBU BEONE」から入店といった具合です。一時期は屋上を通路として使いエレベータを乗り変えるように案内している時期もありました。

9月1日以降はこれまで閉鎖されていた8階が開放されたことにより、水平(横)方法の導線は多少改善されましたが、次に問題になっているのは垂直(縦)方向の移動です。

垂直方向の移動

【出典】: そごう・西武公式ウェブサイト 西武池袋本店 改装工事中の営業情報についてから引用

上の図は、南ゾーンのエレベータ・エスカレータの運行状況です。9月末から、売り場閉鎖に伴い、南ゾーンA通りエスカレータが2~6階で運休となっています。

デパ地下がデパナナとなり7階に移転したため、相当量の上り需要・下り需要があるのにも関わらず、使えるのは南エレベータ6台(内1台ベビーカー・車椅子優先、1台ベビーカー・車椅子専用)と階段のみです。輸送力が客観的に見ても不足しています。

地下1階からデパナナ方面

9月1日昼頃に現地を訪れたところ、B1Fエレベータホールは大混雑。なかなか上に上ることができず、ストレスを感じている方もいるようでした。B1Fは始発なため、到着したエレベータに乗れないことはないのですが、エレベータが到着するまでにかなりの時間がかかってしまいます。

そんな中、待っていると優先エレベータが到着。車椅子・ベビーカーの方はいなかったので乗れるのかと思ったお客さんが殺到しますが、「優先エレベータなので半分程度しか乗せられないんです。」と案内の人がいい、途中で案内打ち切り。大きな声で不満を口にする方もいました。

デパナナから地下1階方面

ただ、より深刻なのは、デパナナから地上階・地下1階に降りるくだり方面です。7階から下る方法は上述のエレベータと階段しかありません。

昼頃、7階から地下に降りようとしたところ、大混雑。エレベータから行列が伸びていました。エレベータそのものもなかなか来ないのですが、来ても8階より上の階から乗ってきた方でほぼ満員状態。辛うじて1,2人が乗り込んでいく状態で、ほとんど列が進みません。

エレベータが来ないとなると、エスカレータか階段しかありませんが、エスカレータは運休のため、階段しかありません。

7階にも案内係の方が2人配置されていましたが、案内があってもエレベータ列が進まない状態には変わりはなく、相当なストレスを感じた方も多かったと思います。

いうまでもないですが、人間は、平気でスマホで数時間無駄にする一方で、外部の力によって待たされるということを過度に嫌う生き物です。「ちょっとあれはないな。」、「今後はしばらく避けよう」と思ってしまった方が一定数いたのではないかと推察できます。

エレベータ運用を改善

さて、これらの問題は『仕方ない』ことなのでしょうか?

確かに2025年のグランドオープン後には、デパナナは元通りデパ地下となり名前通り地下に戻りますし、エスカレータの運行も再開します。しかしながら、この改装工事期間中でも改善はある程度可能なのではないかと考えられます。以下、デパナナがある7階のフロアマップを見て考えましょう。

現状: 6台がいずれも7Fより上、各階どまり

現状のエレベータ運用
上の図のエレベータ部分の拡大図

まず、南ゾーンには、エレベータが6機あり、内4機(9号機~12号機・上の図で1~4番エレベータ)はB1F~12Fまで通っている定員32人の大型エレベータ、残り2機がB1F~8Fまで通っている定員20人程度の中型エレベータです。

現状では、6台全てが、改装工事中の2~6階を通過する以外はすべての階に停止する運用となっており、図の4, 5のエレベータはそれぞれ、ベビーカー・車椅子優先、ベビーカー車椅子専用エレベータになっています。優先エレベータでは車椅子・ベビーカーの方がいなくても、一般の方は半分程度に抑えて案内する運用を行っています。

改善案: 直通エレベータ

改善案でのエレベータ運用
上の図のエレベータ部分の拡大図

改善案では、エレベータの停止階を大胆に制限し、行先ごとに乗車エレベータを振り分けます。

図の5,6番エレベータ は構造上8階までの階にしか止まらないことを活かし、8階を不停止にすることで、『デパナナ直通エレベータ』とします。地下1Fとデパナナのある7階にのみに停止することで、デパナナによる垂直移動需要に応えます。特に7階より上の階に向かわないことにより、7階が下りの始発になり、地上階・地下階に下がりたい人を効率よく輸送できると考えられます。

図の4番エレベータも同様の需要を満たすため、8階から12階を不停止にして『デパナナ直通エレベータ』とします。これで、『デパナナ直通エレベータ』が計3台あることになり、地下1階から7階と7階から地下1階双方への垂直移動需要を十分に満たすことができると考えられます。

一方で、デパナナ以外に向かう人の速達性も重要です。この案では、2,3番エレベータを急行とし、逆に7階を不停止にします。デパナナに向かう人とそれ以外の上層階に向かう人を分けることで、双方がより素早く目的地に向かうことができます。これは鉄道の優等列車と同じ考えです。

さらに、1番エレベータをベビーカー・車椅子優先エレベータとし、全ての階に停めます。ベビーカー・車椅子優先・専用エレベータが2台から1台に減少しますが、そもそもこうした優先区分が作られたのは、車椅子・ベビーカーはエレベータが必須である一方で一般の人はエスカレータという代替手段があったため、「エレベータでしか移動できない人を優先してエレベータに載せようね」という趣旨です。エスカレータが運休し、一般の人もエレベータが必須となった今、ベビーカー・車いす専用エレベータが減るのは仕方がないことだと考えられます。

改装中営業のジレンマ

売り上げを死守

さて、こんなダンジョン化した様子を見て、「一度閉店して改装を行い、改装が終わってから盛大にグランドオープンを祝えばいいのに...」といった思いを抱かれている方も多いと思います。

池袋西武がボロボロになりながらも頑なに一時閉店をしない理由は何でしょうか?

まず一つあるのが、デパ地下(現デパナナ)などのいわゆる『ドル箱』売り場を少しでも開いておくことで、多少の売り上げを期待しているということです。池袋西武は西武・そごうの旗艦店であり、いうまでもなく売り上げの大部分を占めていました。池袋西武を改装のために2年弱閉店させてしまうことの影響がはかり知れません。

そごう心斎橋の二の舞

もう一つ指摘できるのが、「そごう心斎橋本店」の二の舞とならないようにしているということです。

西武・そごうの、西武側の本店は今も昔も池袋ですが、当然そごう側にも本店がかつてはありました。『そごう心斎橋店』です。そごうと西武の合併前に、そごうの本店としてそごう大阪店という店舗がありましたが、2000年に起こったそごうの経営破綻に伴い閉店。その後、ミレニアムリテイリング傘下でそごうが再建された後に、「そごう再生のシンボル」として2005年に、同じ地に建物を新たに開店したのが「そごう心斎橋本店」です。

しかし、2005年のオープンからわずか4年後の2009年に、開店から一度も黒字化することなく閉店しました。その原因についてそごう(当時)は「5年間の閉鎖による深刻な客離れ」だとしています。2000年に大阪店が閉店してから2005年に心斎橋店が開店するまでの5年間の間に、外商客を中心としたお得意様が他の百貨店に流れてしまったというのです。

池袋西武でも同じ過ちを犯すことはできません。

例えば今年5月頃に一時全館閉店をしていれば、すべての改装が終了しグランドオープンができるまでに少なくとも1年、あるいは2年弱かかっていたかもしれません。その間、これまでの顧客が他の百貨店に流れてしまう可能性は十分にあります。売り場が極端に少なくなろうと、建物がダンジョン化しようと、『西武がない日常に慣れさせない』必要があったのです。

ジレンマ

但し、単に店を開けておけばよいかと言われればそうでもありません。

この記事で指摘した通り、改装による混乱は、訪れる人に大きなストレスと不快感を、時に与えかねません。グランドオープン後も、『西武は狭くなってごちゃごちゃしているから行きたくない』というイメージがついてしまっては元も子もありません。

池袋西武はどうなるのか?

池袋西武が無事華やかにグランドオープンをお祝いできる日が来ることを待ち望んでいます。

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